福井地方裁判所 昭和28年(ワ)67号 判決
原告 安田九郎平
被告 島崎藤代 外一名
一、主 文
原告の請求は、いずれも棄却する。
訴訟費用は、全部原告の負担とする。
二、事 実
原告の訴訟代理人は、「被告藤代は、原告に対して別紙目録<省略>記載の家屋を収去して同目録記載の土地の明渡をせよ。被告巧は、原告に対して右土地より退去せよ。訴訟費用は、被告らの負担とする。」という判決および仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、「(一)別紙目録記載の土地(面積五十一坪)は、島崎総八の所有に属していたが、同人の債権者である敦賀無尽株式会社が昭和六年六月二十六日にその債権について右土地に対し強制競売の申立をし、その手続が進行して原告が競落し同年九月一日にその許可決定があり、その結果原告が右土地の所有権を取得して同年十二月九日にその旨の所有権取得登記を受けた。(二)ところが、現在被告藤代は、右土地上に別紙目録記載の家屋(建坪二十三坪)を所有して、右土地を占有し、被告巧は、被告藤代より右家屋を借り受けてこれに居住し、もつて右土地を占有している。(三)しかしながら被告藤代の右土地に対する占有は、権原のない不法なものであり、したがつて被告巧の右土地に対する占有もまた、結局において、不法であるから、原告は、右土地の所有権に基き、被告藤代に対しては、右家屋を収去して右土地を明け渡すことを、また被告巧に対しては、右土地より退去することを求めるために、本訴請求に及んだ。」と陳述し、被告藤代の抗弁に対して、「右家屋が被告藤代の主張どおり強制競売以前から右土地上に所在して総八の所有に属しており、競売当時も同様であつた事実および同被告の主張にかかる家督相続の事実は、いずれも認める。しかしながら本件競売は強制競売であつて、抵当権の実行に基く任意競売ではなく、しかもその競売当時本件土地に対しては、なんらの抵当権も存在しなかつたのである。このように抵当権と全然無関係である場合には、民法第三百八十八条の適用がないことは、もち論、その準用もないのである。そしてかりに本件土地について法定地上権が発生したものとしても、本件土地が所在する福井県の農村方面においては、地代の額について、昔から慣習上一定の基準があり、その後地代に関する統制法規が施行されてからは、その額は、法規によつて当然に確定し得る状態にあつた。それにもかかわらず、総八や被告藤代は、原告の競落の時以来二十余年の長期にわたつて、まつたく地代の支払をしなかつたので、原告は、昭和二十八年三月二十六日に被告藤代に対して、内容証明郵便で、地上権の消滅を請求する意思表示をし、その郵便は、同月二十九日に同被告に到達した。したがつて被告藤代は、同日限り本件土地に対する地上権を喪失した。以上の次第であるから、被告藤代の抗弁は、失当である。」と述べた。<立証省略>
被告藤代の訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」という判決を求め、答弁として、「原告主張の(一)および(二)の事実は、すべて認める。しかしながら別紙目録記載の家屋は、原告主張の競売申立の以前から、同目録記載の土地上に所在していて、しかも総八の所有に属していたのであり、競売当時においても同様であつた。したがつて民法第三百八十八条の準用により、原告が右土地の所有権を取得すると同時に、総八は、右土地に対していわゆる法定地上権を取得したものといわなければならない。そして総八は、昭和十九年五月二十六日に戸主たる地位を隠居して、その子である被告藤代が家督相続をしたので、同被告は、右家屋の所有権と右土地に対する法定地上権とを取得した。しかし右の地上権については、今日に至るまで、地代や存続期間に関する約定がなく、またその裁判もなかつたのである。総八は、右競売の前後を通じて、右家屋に居住していたが、すでに老齢になつたので、昭和二十一年四月に室蘭市に居住する被告藤代方に移住して、その後死亡した。被告藤代は、いずれ帰郷して右家屋に居住する予定であるが、家屋の管理を委託するという趣旨で従兄弟に当る被告巧に右家屋を無償で貸与しているのである。このように被告藤代が法定地上権を有しているから、原告の本訴請求は、理由のないものである。」と陳述し、原告の再抗弁に対し、「総八や被告藤代が本件土地について地代を支払つたことのない事実および原告主張の内容証明郵便がその主張のとおり到達した事実は、認めるけれども、原告主張の慣習が存在することは、否認する。地上権には地代を支払う有償のものとこれを支払わない無償のものとの二種類があるけれども、本件地上権については、この有償であるか無償であるかの根本的な約定すらまだしてないのである。原告は、この約定をせず、したがつて総八に対しても被告藤代に対しても地代の支払を請求したことがなく、また裁判所に対して地代に関する裁判を請求したこともなく、今日に至るまで二十余年間完全に放置していたのである。したがつて本件地上権については、総八や被告藤代になんらの債務不履行も存在しない。このように地上権者に地代の支払義務があるかどうかということすら確定していない状態であるから、地上権者に地代の支払義務があり、しかもその額が確定していることを前提として、その不払という債務不履行を理由とした原告の地上権消滅の請求は、無効である。」と述べた。<立証省略>
被告巧は、適式の呼出を受けたにもかかわらず、本件口頭弁論期日に出頭せず、かつ答弁書その他の準備書面を提出しなかつた。
三、理 由
別紙目録記載の土地が島崎総八の所有に属していたが、原告が強制競売手続において右土地を競落し、昭和六年九月一日に競落許可決定を受けてその所有権を取得し、同年十二月九日にその旨の所有権取得登記を受け、被告藤代が現在右土地上に別紙目録記載の家屋を所有して右土地を占有し、被告巧が被告藤代より右家屋を借り受けこれに居住して右土地を占有しているという原告の主張事実は、被告藤代の認めるところであり、被告巧もまた自白したものとみなすべきものである。
そこで被告藤代は、同被告が右土地に対して法定地上権を有する旨を抗弁しておるけれども、相被告巧は、この抗弁を提出しておらず、しかも本訴は、いわゆる通常共同訴訟に属するものである。しかしながら通常共同訴訟においても、共同被告の一人が提出した抗弁が理由があるときは、共同被告の他の一人に対する原告の請求の全部または一部が理論上当然に不当となる場合には、被告の一人が提出した右抗弁は、これを提出しない被告の他の一人にも訴訟手続上共通な主張として取り扱うべきものであると解するのが相当であるから、被告藤代の右抗弁は、被告巧にも共通なものとして判断しなければならない。そして右家屋が右競売当時右土地上に所在しかつ総八の所有に属していたことは、本件当時者間に争がなく、しかも本件のように、同一人の所有に属する土地およびその上の家屋のうち、その一方が強制競売手続で他人によつて競落され、その結果両者が所有者を異にするに至る場合には、その競落不動産になんらの抵当権も存在しない場合においても、なお民法第三百八十八条を類推してその家屋のために右土地に対して地上権が設定されたものとみなすべきものであるから、本件土地について叙上の競落許可決定があつたときに、家屋だけの所有者となつた総八は、原告の所有に帰した右土地に対して法定地上権を取得したものといわなければならない。なお右土地が宅地であつてその面積が五十一坪であり、右家屋の建坪が二十三坪であるという当時者間に争のない事実ならびに右土地が漁村である長橋部落の内部に存在していて大体において南北に長い長方形をしており、右家屋が右土地上においてその東側境界線と南側境界線とに近い部分に北向に建てられていて間口四間奥行六間ぐらいの長方形をしており、したがつて右土地のうち家屋の北側より西側に至る部分が空地となつているけれども、家屋の北側の部分の空地が主として家屋表玄関より道路に出るための通路として使用されており、家屋の西側の部分の空地には毎年小さい花壇が設けられて来たにすぎないという状態であつて、それらの空地が特別に農地その他の利用に供せられたことはないという証人山下国一郎および原告本人の各供述によつて明かな事実を総合して考察すると、右の空地の部分もすべて右建物の利用に必要な範囲に属しているものと思われるから、前記法定地上権の及ぶ範囲は、右土地の全部であると見なければならない。そして総八が昭和十九年五月二十六日に隠居して、その子である被告藤代が家督相続をしたことは、争のない事実であるから、同被告は、右の相続によつて、前記家屋の所有権と土地全部に対する叙上の地上権とを取得したものである。
つぎに総八も被告藤代も原告に対して右地上権につき地代を支払つたことがないという事実および原告がその主張のとおり被告藤代に対して地代不払を理由とする地上権消滅請求の意思表示をしたという事実は、いずれも当事者間に争がない。しかし被告藤代が主張するように、地代を支払うことは、地上権の要素ではないから、地上権者にその支払義務があるとするためには、当事者の特約またはその請求による裁判所の裁判があることを要するものというべきであるが、本件については、まだこのような特約または裁判がないものであることが弁論の全趣旨によつて明かである。さらに本件地上権者に地代の支払義務があるものと仮定しても、その地代の額、支払期限などについて同様まだ特約または裁判がないものであることは、同じく弁論の全趣旨からして明白である。なお地代の額などについては慣習があるという原告の主張事実は、証人山下国一郎のその旨の供述をにわかにそのまま信用することはできないから、結局において証明がないのに帰する。また地代に関する統制法規は、地代の最高額を法定し、これを超過して地代の額を定めることを禁圧し、その最高額の範囲内で地代を定めることを要求しているにすぎず、特定の土地の地代の額そのものを法律上当然に確定し得る方法を講じているものではないから、その法規によつても当然に地代の額が確定するものではない。これを要するに本件においては、地代を支払うべきものかどうかという根本的な問題すら、なお未確定であり、地代を支払うべきものとしても、その額などが未確定であるから、総八や被告藤代に地代の不払という債務不履行があつたということはできない。したがつてそのような債務の不履行があつたことを前提とする原告の地上権消滅請求の意思表示は、その要件を欠き、無効である。
以上のとおりであつて、被告藤代の本件土地に対する占有は、同被告が有する地上権に基くものであり、被告巧の右土地に対する占有もまた、結局において被告藤代の右地上権に根拠を有するものであつて、いずれも、不法占有ではないから、原告の被告らに対する本訴請求は、すべて理由のないものとして棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決をする。
(裁判官 吉田彰)